タトゥーアーティスト TAPPEI ── 肌からキャンバスまで、未来を描く | Interviews

個展 “From:space” を東京・目黒で開催中の彼に独占インタビュー

アート
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紀元前数千年前より身体装飾や宗教儀式、自己表現の手段として世界各地で施されてきたタトゥー。ここ日本も例外ではなく、入れ墨・刺青という独自の文化として紆余曲折の発展を遂げてきたが、今まさに新たなニューノーマル形成の過渡期を迎えている。

その鍵を握る人物であり先導者のひとりが、タトゥーアーティストの TAPPEI(タッペイ)だ。そのオリジナリティの高いタッチでファッションや音楽といったシーンでも注目を集め、昨年からはアーティストとしての活動もスタート。約1年間で3回の個展を成功させ、現在は4回目の個展“From:space”を東京・目黒のギャラリー『月極』で開催している。今回、『Hypebeast』は個展開催を記念して独占インタビューを敢行。「タトゥーを彫ることは、展示で絵を買ってもらうことに近い感覚」と話す、その真意とは?

HYPEBEAST:まずは、4回目の個展を開催することになったきっかけから教えていただければと思います

去年の6月に初の個展を開催し、今年の1月に3回目も行ったので、2023年の1年間だけで3回分の作品を制作したことになるんですが、バタバタだったけどとにかく楽しくて。年に1回は絶対に開きたいと思ってしまったんです(笑)。

相当なハイペースですよね。

そうですよね。ただ、1年で3回分を経験したから年に1回なら全然余裕です。それに、作品を作ることが普段のタトゥーやグラフィックデザインに対してプラスに働いて、互いに作用し合うことも分かりました。

年に1回の個展というのは、リアルタイムを感じてほしい気持ちもあるからなのでしょうか?

一般的に個展は何年かに1回だと思うんですけど、単純にそれが僕のスタイルにハマらないからです。5年、10年貯めた作品を一気に見せるのは面白いし将来的にやりたいと思いつつ、作ったらすぐに見てもらいたいんですよ。たまに、「作るだけで誰にも見られなくていい」みたいな方がいらっしゃいますけど、あれは嘘だと思います(笑)。作った以上、誰かに見てほしいですよ。

そもそも、昨年初めて個展を開催した理由は?

周りから「展示でもやったら?」と言われることはあったんですけど、“絵を飾る個展らしい個展”は僕がやるのは違うと感じていて。でも、タトゥーやグラフィックデザインを始めて約10年のタイミングだったので、普段のものとは別の何かで形にしたいと思い、余裕も生まれたので個展を開いたんです。

余裕というのは、金銭的に、精神的に?

どっちもですね。コンスタントにタトゥーを彫らせていただけるようになったことで精神的な余裕が生まれ、理想の作品をある程度の形にできる金銭的な余裕も生まれました。もちろん、なんでも作れるほどのお金は無いし、お金が無くてもできることはあるし、お金が無いとできないこともあると分かっていますけどね。

余裕は作品に良い影響を与えると。

例えば、前回の個展ではクレーンゲーム機を使った作品を作ったんですけど、個人でクレーンゲーム機を作るなんて無理じゃないですか。「アートはハングリーであれ」みたいな考え方もありますけど、問題はハングリーさの仕方かなと。“やりたいことをできるだけの金銭的余裕”は必要だと思います。

ありがとうございます。改めて、今回の個展について深掘りさせてください。なぜギャラリー『月極』での開催となったのでしょうか?

上京したての二十歳ぐらいの時からオーナーの方にお世話になっていて、当時は自分のスタジオがないから系列店のバーでタトゥーを彫らせてもらったりしていました(笑)。そんなヤバいやつが成長した今の姿を、昔からお世話になっている方に見てほしいという恩返し的な気持ちですね。

タイトルを“From:space”と名付けた理由は?

SF映画に詳しいわけではないけど世界観がすごい好きで、“宇宙で開催した展示を地球でも行う”というイメージから“From:space”と名付けました。普通の英表記だったら“:”はいらないんですが、汚れをイメージして付けています。というのも、キービジュアルのキャンバス作品を描いていた時、完成間近で汚れてしまったから描き直すつもりだったんですよ。でも、洋服は新品より古着が好きだったり、完全なものより不完全なものが好きだから、「なんで作品だけ綺麗に作っているんだろう」と気付いて、それからアイディアが膨らみ全体の構想が固まりました。ただ、作品は“From:space”をテーマに作ったわけではなく、進めていく中で自然にです。

トータルの制作期間は?

展示開催が確定したのが今年の初めで、実際に制作をしたのは夏からです。長い期間を掛けて作品を作ることは、今の僕がやるターンではないというか、後先考えずに衝動で動いてしまうタイプなので(笑)。

やはり、キービジュアルから制作を始めたのでしょうか?

キービジュアルを含む、いくつかあるキャンバス作品を同時並行で描き始めたんですが、これまでキャンバス作品は未経験で、なんとなく避けていたんですよ。多分、その1つの要因が“綺麗すぎるから”。でも「とりあえずデカいキャンバス作品を作ってみるか」と描き始め、キービジュアルが汚れたタイミングで他の作品もどんどん描き進められましたね。

では、いくつか作品解説をお願いできればと思います。

まずは、展示・販売しているダンボールの作品から。僕、なんか箱が好きなんですよ。特にダンボールは最初が平面で、組み立てたら簡単に立体になり、中には空っぽな空間ができる。この空っぽな中身を、展示空間の一部として買ってもらうイメージで作りました。全部で100個あるのですが、全て手描きです。
展示を訪れてくれた方が、ダンボールの外側に描かれている絵を見て「買いたい」と思うのは、“絵を買っていること”になるじゃないですか。だから、購入時にダンボールは絵柄を指定できず、展示後にランダムで発送させていただき、届くまで何が来るかわからないようにしています。それに、ダンボールはあくまで器なので、配送時に伝票や指定配達、天地無用のシールが貼られるし、道中に地面や雨で汚れてしまうけど、それがいいんです。配送後は、家で開封して飾ってもいいし、シールを全て剥がしてもいいし、その人次第。ちなみに、本当は無地のダンボールにしようと思っていたんですけど、あまりにもサービス精神がなさすぎると思ったので止めました(笑)。

このキャンバス作品は、もともと僕の名前をタイトルにするほどお気に入りの作品で、宇宙での展示期間中はオリジナルキャラクター“天使”が描かれていたんですが、『月極』に到着したら逃げてしまったことを表現しています。だから、タイトルが“TAPPEI”から“HE QUIT ART”に描き変えていて、でも作品自体は“天使”が逃げているから“ESCAPE”という(笑)。逃げた“天使”は、実際にギャラリー内にいるので探してほしいです。

先ほど箱が好きだと話しましたが、昔からクレートと呼ばれる美術品を運ぶための木箱がカッコいいと思っていたので、それをモチーフにしてみました。本来、宇宙では木箱の中にいるモンスターを展示していたけど、地球では暴れん坊すぎて危ないから開封できず、木箱ごと展示しているイメージですね。中のモンスターに穏やかでいてほしいから“KEEP THE ANGEL”と書いていたり、隕石バージョンの水濡注意のステッカーを貼っていたりしています。

今回の展示は、タトゥーアーティストとしての一面よりも、アーティストとしての一面にフォーカスした内容になっているかと思います。

タトゥーは、基本的にその人が死なない限り一生残るものですけど、その一生の中でタトゥーを入れている人全員が、タトゥーが最高だと思い続けられるわけではないと思うんですよ。やはり一部の人は人生や仕事等の原因でタトゥーを消したくなったりだとか、何かしらの後悔がある人もいるはずです。その中で、僕がアーティスト活動を続け評価されて作品に高い価値が付くようになったら、後悔することがあっても大事に思える存在になるかなって。僕がタトゥーを彫らせてもらった方々には後悔してほしくないし、もともと自分の作品を絵として肌に彫らせてもらう感覚だったので、その流れですね。

制作を振り返って、マインドに変化などはありましたか?

僕は数あるタトゥーの中でもイラストに近いデザインで、ある程度のスタイルもできていたんですけど、“展示で作品にどう面白みを出せるか”を考えた時、逆にタトゥーにまだまだ幅があることに気付けましたね。まだ明確な答えは無いんですけど、確実にいい効果はありました。

ここから少し話の間口を広げると、昨今、TAPPEIさんはブランドとのコラボやクライアントワークも手掛けられていますが、クリエイションという面で純然たる個性が出せる作品や普段のタトゥーアーティストとしての仕事との差異はありますか?

ありがたいことに、「これ作ってください」みたいなクライアントワークは減りましたね。もともと受けないようにしていて、それはクライアントの要求が大前提だから指示通りにしか作れないのに、お客さんにはどんな形であれ僕の作品だと思われちゃうから。もしお客さんが100%満足してくれたとしても、自分が100%じゃなければ本来お客さんも気に入らないはずなので。というか、正直に言うとタトゥーアーティストだけで食べていけるので、無理してクライアントワークを受けなくてもいいんですよ。これが僕のよいところで、絵やグラフィックを仕事にしている方は、どうしても生活のためにクライアントワークが必要ですから。
普段のお客さんに関しては、最近は9割ぐらいの方にお任せで彫らせていただいています。毎日描き溜めているデザイン集の中から選んでもらうことが多いので、そういう意味では展示で絵を買っていただく感覚に近いかもしれません。

国内のタトゥーシーンの現状はどう見ますか?

最近は自分の絵を表現するひとつの方法として、タトゥーアーティストを選ぶ子が増えている気がしますね。入れている人も明らかに増えているので、以前までのような“世間にタトゥーを受け入れてほしい”というフェーズではないと思います。今は、タトゥーが悪いものではなく、悪ぶりたいから入れてるわけでもないことが伝われば偏見はだいぶ無くなるので、このまま訴え続けるほうがアホに思われてしまう(笑)。どこに行くか、何をするか、自分のやり方次第ですよね。

最後に、今後の展望を教えてください。

来年の夏頃、仲の良い漫画家の子と2人で展示を開催する予定です。タトゥーアーティストと漫画家という本業が絵に関する2人だからこそ、アーティストとして一緒に展示をしたら面白いものができると思っています。あとは、大きな規模のものは無理ですが、個展のような形式でもいいので、僕の考えるくだらなくて楽しいTAPPEI LANDをいつか開きたいですね。

TAPPEI Solo Exhibition “From:space”
会期:9月29日(日)〜10月27日(日)火曜休廊
開場時間:14:00~20:00(月・水〜土) 13:00~19:00(日)
会場:月極
住所:東京都目黒区中央町1-3-2 B1F

 

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テキスト
Writer
Riku Ogawa
フォトグラファー
Takao Okubo
プロデューサー
Sachiko Tsutsumi / Hypebeast
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