Ferrari 12 Cilindri を試乗してわかった5つのポイント

ルクセンブルクで行われた“12チリンドリ”の国際試乗会。ハイブリッドでもなければターボエンジンでもない自然吸気式のV12エンジン搭載モデルを現在も作り続けているのは世界中探しても「フェラーリ」だけだ

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「1946年に排気量1500ccの12気筒エンジンが誕生したことを考えれば、フェラーリのオリジナルモデルは常に12気筒だったことになります。したがって、それ以外はオリジナルの派生モデルといえるでしょう」

フェラーリ(Ferrari)」の創業者であるエンゾ・フェラーリ(Enzo Ferrari)は、生前、そう語っていた。つまり、12気筒搭載モデルこそが「フェラーリ」であり、その意味で12気筒エンジンは「フェラーリ」の本質であると同時にブランドのスピリットを体現する存在といえる。ただし、排ガス規制やCO2排出規制が年を追うごとに厳しくなる現代に、ハイパフォーマンスなV12エンジンを生き長らえさせることは容易ではない。その証拠に、現在販売されているV12搭載モデルは、すべてハイブリッド・システムと組み合わされているか、あるいはターボエンジンとされているかのどちらかである。唯一、「フェラーリ」を除いては……。

そう、ハイブリッドでもなければターボエンジンでもない自然吸気式のV12エンジン搭載モデルを現在も作り続けているブランドは、世界中探しても「フェラーリ」だけ。つまり、ほかのすべての自動車メーカーがすでに諦めた困難に、いまも挑戦し続けているのが「フェラーリ」なのである。そんな「フェラーリ」が世に送り出す自然吸気式V12エンジン搭載モデルの最新作が、“12チリンドリ(12 Cilindri)”(イタリア語で「ドーディチ・チリンドリ」と発音)である。そこに“跳ね馬”の誇りとテクノロジーのすべてが込められていることは言うまでもない。この「フェラーリ」12チリンドリに、冬の足音が迫るルクセンブルクで試乗した。

外観

「フェラーリ」マニアであれば、12チリンドリのスタイリングが1968年にデビューした名作365 GTB4のオマージュであることにすぐ気づくはず。とりわけ、鋭くとがったノーズの先端に設けられた黒い“ベルト”は、デイトナのニックネームで親しまれてきた365 GTB4を彷彿とするもの。

ただし、往年の名作をただコピーするだけでなく、未来に向けた提案も盛りこむのが自動車デザイナー フラビオ・マンゾーニ(Flavio Manzoni)率いるフェラーリ・チェントロスティーレの流儀。円筒形のボディサイドを垂直に断ち切ることで生まれた幅5センチほどのラインをボディの周囲にぐるりと巡らせたり、ルーフやリアウィンドウ周りに描かれたブラックのグラフィック・デザインなどは、その象徴といえる。そうしたデザイン・モチーフを、ロングノーズ・ショートデッキの優雅で美しいプロポーションに盛りこんだのが12チリンドリのエクステアリア・デザインなのである。

インテリア

エクステリアとは打って変わり、極めてモダンなデザインに仕上げられているのが12チリンドリのインテリアだ。そのコンセプトは「デュアル・コクピット」と呼ばれるもの。本来、コクピットはドライバーのためのものだが、それを彷彿とするデザインを助手席側にも設けることで、キャビン全体にシンメトリーな造形を生み出すとともに、助手席に腰掛けたパッセンジャーにもドライビング・プレジャーを感じてもらおうとする意図が表現されている。

そうしたデザイン・コンセプトに基づくキャビンのなかでもひときわ魅力的に映るのが、シートに張られたレザーの美しい発色である。試乗車はヴェルディ・ヴェナリアと呼ばれる深みのあるグリーンに染められていたが、美しい泉を思い起こさせるその色合いは、シックでありながらハイテクなコクピットにもピタリとあっていて、その圧倒的なセンスには脱帽するしかない。

エンジン

年年強化される排ガス規制の影響で「牙を抜かれた」エンジンが散見されるなか、12チリンドリに搭載された排気量6.5リッターの自然吸気式V12エンジンは、その傑出したパフォーマンスと官能性で乗る者を魅了して止まない。最高出力の830psは実に9250rpmで生み出されるほどの超高回転タイプながら、タウンスピードでも十分なトルクを生み出してくれるので扱いにくさは皆無。そんなときの回転フィールは痺れるほどに滑らかで、もうこの段階で全身がトロットロにとろけてしまうほど魅惑的だ。

しかし、フェラーリが4年の歳月をかけて開発した最新V12エンジンの魅力は、これだけに留まらない。回転数を上げれば上げるほど、ピュアで抜けのいいエンジンサウンドには中音域の迫力ある音色が加わり、荘厳なシンフォニーを奏で始める。かつて指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンはエンゾ・フェラーリに宛てた手紙のなかで「あなたが作るV12エンジンはどんなオーケストラでもかなわないほど美しい音色を響かせる」としたためたそうだが、まさにそのとおり。しかも、8000rpmを越える領域では泣き叫ぶようなサウンドと爆発的なパワーが一体となってドライバーを魅了するのだからたまらない。

この瞬間のためだけに12チリンドリは存在するといってもいいくらい、その世界は深遠で官能的だ。

街での走り心地

エンジンの項でも申し上げたとおり、タウンスピードでも12チリンドリのV12エンジンはたっぷりとしたトルクを生み出してくれるので扱いやすさに不満はない。また、エンジン回転数を2000rpm以下に留めておけば、クルージング時にはエグゾーストサウンドがほとんど耳に届かないくらい静粛性が高い点も特筆すべきだろう。

それとともに印象的なのが足回りのしなやかさ。先代の812スーパーファストを同じようなシチュエーションで走らせると、「コツコツという路面からのショックを強固なボディが鮮やかに受け止めている」という印象だったが、12チリンドリでは、この「コツコツ」というショックが感じられないほど足回りはしなやかなのだ。目をつぶって運転していたら(もちろん、そんなことはできないが……)、よくできたスポーツサルーンと勘違いするくらい、その快適性は高い。

それでも、交差点などでステアリングをすっと切った拍子にノーズの向きが鋭く変わるときもあって、スポーツドライビングへの期待が高まるのだが、その魅力を満喫するにはサーキットや本格的なワインディングロードなどが不可欠となる。

トラックでの実力

……というわけで訪れたのがグッドイヤーのプルービンググラウンドである。世界的なタイヤメーカーであるグッドイヤーは、12チリンドリのためのタイヤをフェラーリと共同開発。その実力を確認するためにやってきたのが、ルクセンブルク内に建設された同社のプルービンググラウンド、つまりはテストコースである。12チリンドリにライン装着されるグッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツも、どうやらこのルクセンブルクのプルービンググラウンドで開発されたらしい。

意を決してコースを走り始めると、それまでの青空が一転してスコールのような強雨が降り始めた。通常であれば怖くて仕方がない状況だろうが、そんなときにもイーグルF1スーパースポーツは侮りがたいウェットグリップを発揮。安心してコーナーを攻める自信をドライバーにもたらしてくれる。

しかも、限界的なコーナリングを試してみれば、アンダーステアといって前輪がアウトに逃げ出しそうになると小刻みな振動をステアリングに伝えるいっぽう、テールが滑り出す感覚もシートを通じてはっきりと感じられるので不満はない。この点において、12チリンドリはV12エンジンを積むフェラーリ・スーパースポーツの伝統を正しく受け継いだモデルだといえるだろう。

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