8年ぶりに開催された Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN 2024 をレポート
ナズやジョージ・クリントン率いるパーラメント・ファンカデリック、ナイル・ロジャース&シックなど豪華アーティストが集結した2日間を振り返る
『Blue Note New York(ブルーノート・ニューヨーク)』の主催で2011年にスタートし、ニューヨークのさまざまなヴェニューを使って1カ月間行われる「Blue Note JAZZ FESTIVAL(ブルーノート・ジャズ・フェスティバル、以下BNJF)」。その日本版として2015年に横浜赤レンガ倉庫野外特設ステージで初開催されたのが「BNJF in JAPAN(ブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン)」だ。以降、翌2016年の開催を最後にストップしていたが、今年8年ぶりに再開。会場を東京・有明アリーナに移し、9月21日(土)と9月22日(日)の2日間にわたって国内外のアーティスト計10組によるライヴが行われた。出演者は、多くのジャズ・フェスと同じく狭義のジャズ・アーティストにとどまらず、ジャンルも世代も幅広い。が、突き詰めれば、その大半がジャズに影響を受けていたり、そこから派生した音楽をやっている人たちだったりする。2022年からはワインの産地としても有名なカリフォルニア州のナパでロバート・グラスパー(Robert Glasper)が舵を取る「BNJF in Napa」もスタートし、現代的な発想と人選でフェスを進化させている。
今回の「BNJF in JAPAN 2024」は、初日がファンク、R&B、ヒップホップ、2日目がジャズとAORを中心としたラインナップ。若手からヴェテランまで多彩な顔ぶれだが、いずれもライヴ・パフォーマンスに定評のある人たちばかりだ。会場は全天候型のアリーナで、『Blue Note Japan』が主催するフェスらしいマチュアな雰囲気もあり、ステージの熱気を浴びつつ落ち着いた環境で観ることができた。ここではヴォーカル・パフォーマンスを主とする海外勢5組のステージを振り返る。
タンク・アンド・ザ・バンガス
現代のニューオーリンズを体現するタンク・アンド・ザ・バンガス(Tank and the Bangas)。R&B、ファンク、ヒップホップ、ジャズ、ロックなどをミックスした音楽は、彼の地の名物料理に喩えて言うなら“ガンボ”だが、軸となるのはフロントに立つタリオナ“タンク”ボール(Tarriona ‘Tank’ Ball)のポエトリー・リーディング/スポークンワーズだ。4年ぶり、2度目の来日。その間に出した『Red Balloon』や今年発表したEP3部作の合体アルバム『The Heart,The Mind,The Soul』からの曲を中心にしたステージは、“Why Try”で賑やかにスタート。スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)の“Another Star”などのソウル・クラシックも織り交ぜ、ハードからメロウまで剛柔自在なバンドの演奏とタリオナの力強く淀みのない歌とラップ/リーディングでたたみかける。表情豊かで予想のつかない曲展開は、まるで遊園地のアトラクションのような楽しさ。地元のコミュニティに捧げた“Black Folk”はファラオ・サンダース(Pharoah Sanders)“Love Is Everywhere”とのマッシュアップで原曲と趣を変え、マルディグラのパレードを連想させる激しく陽気なアレンジで聴かせた。バンドが所属する「ヴァーヴ・グループ(が所有するインパルス)」のレガシーにも敬意を表したこれは今ステージのハイライトと言っていいだろう。最後はニューオーリンズらしいバウンス・チューン “Big”。タリオナが体やお尻を揺らしたトゥワーキングも含めて、どこまでも自由でパワフルな熱演だった。
パーラメント・ファンカデリック feat. ジョージ・クリントン
2010年代にツアーからの引退表明をするも前言撤回。昨年秩父で行ったフェスに続いてジョージ・クリントン(George Clinton)率いるPファンク軍団(パーラメント・ファンカデリック)がスペースシップに乗ってやってきた。ライヴは“(Not Just)Knee Deep”で威勢よく開幕し、序盤から演者全員で煽ってくる。御年83歳のクリントンはたびたび椅子に腰掛けるが、全力でダミ声のシャウトをかまし、司令塔としてカオスなステージを統率。彼の存在が今もバンドのキモであることに変わりはない。“One Nation Under A Groove”、“Flashlight”、“Do That Stuff”などの名曲が賑々しく放たれていく。この日、フェスのトップバッターを飾った堂本剛のPファンク憧憬バンド=.ENDRECHERI.(エンドリケリー)はクリントンが客演した新曲 “雑味”を初披露したが、歌やラップが無造作に飛び交う様は、まさに“雑味”。“P-Funk(Wants To Get Funked Up)”ではトロンボーンのグレッグ・ボイヤー(Greg Boyer)を含むバンド・メンバーが長尺のイントロで各々のソロを披露。終盤、マイケル・ハンプトン(Michael Hampton)の渦を巻くようなギター・ソロによる“Maggot Brain”も壮絶だった。最後は“Give Up The Funk(Tear The Roof Off The Sucker)”で大団円。Pファンクにしてはコンパクトにまとめられたショウながら、とてつもなく濃密な1時間強だった。
ナズ
初日のトリを飾ったのはナズ(Nas)。ヒップホップ誕生年とされる1973年に生まれた彼は、今や“生ける伝説”的な存在となったが、DJとドラマーを従えてマイクに向かう勇姿は往時のそれと変わりない。ヒップホップを取り巻く環境が変化しても我が道を歩み、力強い声で“キング・オブ・MC”たる風格を見せつける。デビュー作にして歴史的名作となった『Illmatic』の30周年を謳ったステージ。日本でのソウル・バー体験に基づいた“Japanese Soul Bar”も含めた近年の曲まで、ナズ自身の30年間を振り返るようにクラシックを連発していく。が、ひときわ大きな歓声が上がるのは、やはり『Illmatic』の曲(*“N.Y.State Of Mind”、“The World Is Yours”、“Life’s A Bitch”、“Memory Lane”など)。バックスクリーンに映し出されるニューヨークの風景も相まってリリックも一層リアルに響き、クイーンズのプロジェクトから這い上がってきたナズの生い立ちを追体験するようなストーリー性のあるステージングに引き込まれていく。最後に披露した“One Mic”そのままにマイク一本で会場をロックし続けたナズ。会場の歓声や一体感はこの日一番だった。去り際には先日他界したティト・ジャクソン(Tito Jackson)とフランキー・ビヴァリー(Frankie Beverly:Maze)の名前をシャウトアウト。ハイプマンとして会場を煽り続けたDJのグリーン・ランターン(Green Lantern)がメイズの“Before I Let Go”を流して、初日の公演はお開きとなった。
ナイル・ロジャース&シック
ジャズ色が強かった2日目にディスコの風を運んで会場を賑わせたのがナイル・ロジャース&シック(Nile Rodgers & Chic)だ。勢い余ってか、ステージ登場直後に転倒したナイル。「ギターが壊れたかも…」と言いつつも、演奏を始めれば場をハッピーな空気に変えてしまうのが彼らしい。ナイルのカッティング・ギター、故バーナード・エドワーズ(Bernard Edwards)の後釜ながら今や古参となったジェリー・バーンズ(Jerry Barnes:元 Juicy)のベースを軸として、“Le Freak”を筆頭にシックのダンサブルでスタイリッシュな名曲を奏でていく。ユニゾンの女声は、ゴスペル・シンガーばりの熱唱も聴かせたキンバリー・デイヴィス(Kimberly Davis)と、近年加入したオードリー・マーテルズ(Audrey Martells)。ダイアナ・ロス(Diana Ross)、シスター・スレッジ(Sister Sledge)、マドンナ(Madonna)など、ナイルがプロデュースや演奏で関わった曲のカヴァーは毎度お馴染みだが、今回は近年ギターで参加したビヨンセ(Beyoncé)の“Cuff It”も披露。ダフト・パンク(Daft Punk)の曲も「解散した彼らとはもう共演の機会がないから」と、定番の“Get Lucky”に加えて“Lose Yourself To Dance”も演奏した。ドラマーのラルフ・ロール(Ralph Rolle)がデヴィッド・ボウイ(David Bowie)を真似て歌う“Let’s Dance”を経て、最後はお馴染み“Good Times”。ここでは次の出演者であるマーカス・ミラー(Marcus Miller)が飛び入り。ジェリー・バーンズ(Jerry Barnes)とのスラップ・ベース競演で会場を沸かせたこのシーンは、今フェス全体のハイライトだったかもしれない。
シカゴ
「BNJF in JAPAN 2024」の終幕を飾ったのは、8年ぶりに来日したシカゴ(Chicago)。結成57年、今やオリジナル・メンバーは鍵盤とヴォーカルのロバート・ラム(Robert Lamm)を含む3人で、ステージに立つ11名の大半が新顔となる。シカゴといえばブラス・ロックとAORふたつの側面を持つバンドで、当然ながらライヴにもその特性が反映される。70年代を中心としたブラス・ロック曲では、シカゴ・トランジット・オーソリティ(Chicago Transit Authority)名義による最初期のレパートリーも含めて、古参のリー・ロックネイン(Lee Loughnane、トランペット)とジェイムズ・パンコウ(James Pankow、トロンボーン)らによるホーン隊が鮮やかな快音を放つ。が、特にファンを喜ばせたのは、80年代にヒットしたAOR/ポップス路線のバラードだ。ピーター・セテラのイメージが強い“You’re The Inspiration”などをセテラに似た甘く伸びやかなハイトーン・ヴォイスで歌ったのはニール・ドネル。ロングトーンの絶唱でも喝采を浴びた。ドラムとパーカッションの激しいインタープレイの後、アルバム・ヴァージョンに準じて歌われた“Hard To Say I’m Sorry / Get Away”、ブラス・ロック期の代表曲 “Saturday In The Park”も大歓声。今フェスで唯一アンコール・パートも用意され、ファンク・ロックな“Free”に続いて、最後は“長い夜”の邦題でお馴染みの“25 or 6 to 4”を勇壮にパフォーマンス。大御所の貫禄を見せつけた。